安倍政権の経済と外交

平成25年7月26日

 安倍首相は就任以来、驚異的な行動力を持って、諸外国の首脳との会談を行い、外交的成果をあげている。又日本の経済的再建に向けたアベノミクスも世界の首脳の注目を浴び一定の評価を得ている。しかし外交も経済も本当の成果は簡単にかちとれるものではない。現在までの安倍政権の成功は、その心意気に多くの国民が賛同し、自国の未来に明るさを感じたのにすぎないのだ。



アベノミクスの三本の矢



 安倍首相の強い決意の下に3月黒田東彦総裁が日本銀行に誕生した。政府と日銀が一体となって景気回復を行うという、それまでの日銀の基本方針を転換するものであった。それまでの白川総裁の方針は、日銀は政府との距離を置き、中立性を保つというものであり、国内景気に一切責任を持たない存在であった。それに対し黒田総裁は「政府と一体となり、やれることは全てやる」と宣言したのである。4月4日、日銀が市場に供給するお金の量を2年間で倍増させる「異次元」金融緩和を発表した。日銀はそれまで、過剰マネーが資産バブルにつながるのを警戒し緩和策を小出しにしてきた。これに対して黒田総裁は「必要な政策をすべて講じた」として、手持ちのカードを惜しみなく切り、景気刺激に大きな成果を上げた。想定を上回る緩和の内容に円安株高が加速し、5月23日には円相場は103円まで円安に振れ、株価は1万5千9百42円に急上昇した。これは多くの経済学者が予想したものを大きく超えたものであった。ほとんどの経済学者は今年の12月段階で株価が1万5千円から1万6千円を示し、円相場は100円になると予想していたので、6ヶ月も早まったのである。


  あまりにも急激な株価上昇と円安相場は市場に警戒心を呼び込み株の乱高下が始まった。6月中旬には4月4日の金融緩和発表時の株価に戻した。そこで第二の矢と言われる大規模な財政出動が、日本の経済が成長軌道に乗るまで続けられる。これは政府が金を出すので公共事業の拡大という形で行われる。公共事業を目の敵にし、その削減を進めてきた民主党政権とは正反対の方針だ。死の淵に横たわった日本経済に対してカンフル効果を期待し、とにかく起き上がらせなくてはならないと決意した安倍政権の方針であった。財政出動である以上、国債にしろ税金にしろ、国民の金を使うので、どこかに皺よせが生じるのは当たり前であり、それを副作用と言うのであろう。平成24年度の補正予算13兆円のうち、2・4兆円、25年度予算のうち5・3兆円を盛り込み、「15ヶ月予算」のうち7・7兆円を公共事業に使う事を決定した。この効果はすぐ現われ、建設業の株価指数は4割も上昇した。この一の矢、二の矢は安倍政権発足時から予想されたものであった。それ故。昨年11月から市場は活性化し、その実現を期待していたのである。


  問題は第三の矢であった。「成長戦略」として期待を持たれていたが、あまり思い切ったものでなく、日本の経営者団体からはおおむね評価を得たものの株式市場は冷静であった。そこで「新成長戦略」として税制改正を指示し、企業減税、投資減税の具体化を行い、更に設備投資、研究開発部門の減税を行い成長戦略を推し進める方向を示している。これらを参院選後に行い、「第四の矢」とするようだ。


 安倍政権はかつてない程の多彩な方針を次々と打ち出している。その全てが成功するとは限らないが、今までの無策が日本経済の低迷を生み出している事は確かであり、突破口を求めての試行錯誤であろう。ただその底流には、日本という国への自信と信頼に裏打ちされた覚悟を見る事が出来るのである。それは北アイルランド、ロックアーンで開かれたG8(主要8ヶ国首脳会議)に於いて、日本のアベノミクスが注目された事に示されている。イギリスのキャメロン首相は「経済再生を高く評価する」と言い、イタリアのレッタ首相は「経済再建の最善の策として参考にしたい」と高く評価したが、ドイツのメルケル首相は「日本は大変な赤字を抱えている」と牽制をした。いずれにしても世界の首脳が注目し、日本の再生を期待し、世界経済をリードする力を求めているのだ。


 安倍政権の外交は見事に世界中を網羅し確実に成果を上げている。今まで中国に気を使い思い切った経済外交をしてこなかったが、ロシア、中東に100人以上の日本企業の関係者を引き連れて訪問し、経済交流の糸口をつけ、資源大陸アフリカの首脳50ヶ国以上の国々と会談を行い、東南アジアの国々とは共通課題である中国に対する海洋侵略に対する協議を行ってきた。この半年余りで世界の至るところに足を伸ばし布石を打ってきた。日本経済のグローバル化に適応する環境づくりは着々と進みつつある。「世界と共に生きる日本」を力強く印象付けた外交である。しかしこのような日本の動きに「苦虫をかみつぶしたよう」な思いでいるのが中国である。自らを帝国主義国のように振るまったかと思えば、環境問題などに対しては「発展途上国だ」とひらきなおる。利益至上主義を平然と唱え続け、属国の拡大だけを追求している中国と日本が対立するのは明白である。