領土主権は国家の生命線
正念場を迎えた領土問題

平成24年10月16日

 わが国は、戦後、先送りし続けてきた諸問題に結着をつける時を迎えた。言い替えるなら、世界の動きは、先送りを許さなく、決断を迫っていると言えるであろう。日本が「固有の領土」と主張する北方領土、竹島、尖閣諸島は、ロシア、韓国、中国がそれを認めていない。又、わが国の憲法は近隣諸国との争いを禁じ、一切の交戦権を奪っている。


 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」(憲法前文)しようにも、その諸国がわが国と国民の安全を脅かしているのである。「政治」とは一体何なのか。「政治家」とは何を為すべき人々なのか。わが国の未曾有の危機に対し政治の役割は増大し重くなっていくであろう。 




政府、国民の覚悟を問われる領土問題


 日本にとって喫緊かつ重要な問題で、現民主党野田政権は失敗を重ねている。尖閣諸島国有化は、その目的が「平穏かつ安定的な維持」とされ、石原都知事が行おうとした、尖閣諸島実効支配の強化を阻止する為に国有化を図ったのであった。しかしこの方針は中国政府につけ入る隙を与え、カサにかかった攻撃を許すことになったのである。尖閣問題で政府は今まで「日中両国の間には領土問題は存在しない」と言い続けてきたが、もはや、そんな言い逃れは国際的に通用しなくなってきたのだ。何故ならば中国政府は9月14日、尖閣諸島の周辺海域を中国の領海とする海図を国連に提出し、それが受理されたのだ。これは国連海洋法条約に基づき提出されたので、わが政府は従来通り「領土問題は存在しない」と言っているばかりでは国際的に不利になる。野田首相は国連演説で対抗しようとしているが、これも明らかに失敗である。


 尖閣諸島問題が他の北方領土、竹島と違うところは誰でもわかる事だが、日本国が実効支配している点であり、この実効支配を万全なものにしていく事以外に方針があるわけがない。自分の領土に施設を作り、人を住まわせる。当たり前の事を当たり前に行う事が重要であり、逆に無人島にしておく事は、他国につけ入る隙を作る事になってしまい、軍事衝突を招かねないのである。日本青年社が27年間、尖閣諸島に灯台を建設し、その灯台を守り抜いた事は、民族派団体として、国家がやろうとしても出来なかった事を、身を挺してやり抜いた結果であり、最小限ではあるが実効支配を唯一実行した。今日に至るも、日本青年社が建設した灯台と岩に描かれた日の丸以外に実効支配の強化は図られた形跡がない。本来野田政権は、尖閣国有化を決定した以上、諸施設の建設と防衛体制の強化を行なわなくてはならなかった。不退転の決意を示す事により国民に対して覚悟を求めなければならなかったのである。領土問題は必ず双方に言い分が存在する。わが国が竹島を韓国による「不法占拠」だと主張している。実際、竹島は日本の領土であり韓国はいつの間にか警備人を常駐させ韓国の領土だと主張している。そうなると本来日本は実力で竹島から韓国人を排除しなくてはならない。そこには軍事力という力が存在しなくてはならない。尖閣も同様である。南シナ海で東南アジアの国々から島を奪ったように漁船を先陣して漁民保護の名目で軍隊を投入し占領してしまうのである。これを阻止する為には軍事力が必要である。勿論現時点でそのような状況が起きるとは考えにくいが、日本が隙を見せれば、必ず攻撃を強めてくるであろう。このように国を守るという事は大変な覚悟を政府と国民が持つと言う事であり、それこそが政治なのだ。



無法国家中国といかに対決するのか


 尖閣諸島国有化に対する中国政府の異常な反応は常軌を逸するものになっている。


 日本政府の尖閣諸島国有化以降、連日の反日デモは暴徒化し、日系企業の工場、スーパー、コンビニなどの店舗は破壊、放火、略奪によって甚大な被害を受けた。このニュースは世界中を駆け巡り、中国が「法治国家」とは到底いえない異様な「無法国家」であることを世界に露呈した。更に中国政府は一部のデモ参加者が暴徒化するのを黙認し、一方で「責任は全て日本側にある」と言い放った。中国政府は国際的非難を恐れてデモを封じ込めに転じたが、対日圧力はゆるめるどころか、益々強めている。日本政府はこの暴動によって生じた全ての損害を中国政府の責任によって支払わせる事を徹底して求め、一歩も引いてはならない。中国が法治国家として存在したいならば、国際社会の一員である事を自認するならば、それは最低限の責務である。


 国際世論も領土問題の是非はともかく、他国民や他国企業の安全を保障もできない国家、政府を認める事はないであろう。


 中国政府の尖閣奪取の方針は場当たり的な日本の対応と違い、一歩一歩着実に進んでいる。当初は「棚上げ論」であった。これは中国に外交力に必要な軍事力が不足していた為である。しかし年十八パーセントという軍拡方針を維持し、経済的にもGDPで日本を抜くという状況を迎えて一変した。つまり棚上げせずに領土問題として浮上させる方針転換を行ったのである。領土法で尖閣諸島を中国領と定めたことが第一弾であり、あとは何でもありうるという事になる。国際的には全く通用しない法であっても中国々内では立派な法であるから、日本の様々な動きは不法行為になってしまうのだ。今回の日本の国有化などは「とんでもないこと」になりうる。海上保安庁の巡視活動は「侵略行為」となり、日本は「帝国主義的」になるのだ。このような無法、理不尽に対し日本政府は対決しなければならない。その為には胆を括った一歩も引かぬ覚悟が求められる。それがわが日本の政府であり、政治でなくてならない。

中国の指導部の交替が目前に迫っている

 次期国家指導者に内定している習近平国家副主席は9月19日、北京の人民大公会堂でパネッタ米国防長官と会談し、日本政府による尖閣諸島の国有化を「茶番」と批判し、「中国の領土を侵害する言動をやめるよう求める」と述べた。我々が中国指導部の動きに一喜一憂してもはじまらないが、次期習政権は日本との対決の強化をもたらすと推測されている。その習氏が一番気にしているのが米国の態度である。米国の公式見解は「領土を巡る争いには関与しない」しかし「日米安保の適応範囲に尖閣諸島は入る」というものであり、全面的に日本の見方というわけではない。中国としては米国が日本としっかりとしたスクラムを組んでいては手が出せない。民主党政権になり、意味のない米国離れを行い、中国に尾を振った途端、中国の逆襲が始まった。まさに、鳩山、小沢が招いた危機といってもいい。自国の防衛体制の強化も図らずに、日米安保の重要性も理解せず、あげくの果てに国連軍に期待する間の抜けた指導者たちを許してはならない。中国に対する対応では日米の強固な同盟関係を維持する事、領土問題は存在しないなどという空虚な言葉を並べるのではなく、国際社会に対し、日本の正当性をハッキリと宣言し、中国の侵略者の立場をきわ立たせる事、これは東南アジア諸国と同じ立場にあるので協同行動が必要。国内での領土防衛意識の全国民的高揚と海上保安庁、自衛隊の防衛体制の強化などが求められている。


 しかし、領土問題で最大の課題は実効支配にある事は間違いない。中国が尖閣領土の問題に力を入れ始めたのは、実効支配の年数が五十年を越えてからでは遅いという判断があったと言われている。国際的には実効支配が50年続くと、支配国の領土権は動かないとされているのである。ではその実効支配とは何を指すのであろうか。勿論、人が居住し、生活する形が最も好ましい事は言うまでもない。しかし無人島では灯台が有効な実効支配になる場合が多い。数少ないハーグ国際裁判所の判決の中にマレーシアとシンガポールとの小島をめぐる争いがあり、歴史的にはマレーシアの領有と思われた島がシンガポールの灯台管理により一部分はシンガポールに領有権を認められる判決が下された。このように実効支配こそ最も有効な防衛手段なのであり、実効支配の強化こそ領土紛争の解決への道なのである。

時効中断として有効な裁判闘争

 韓国大統領の竹島上陸は、天皇陛下に対する不敬発言と重なり、日本国民の怒りを掘りおこした。日本政府は竹島問題の国際司法裁判所への提訴に踏み切った。過去二回の提訴とも韓国は共同提訴を拒否し、竹島の領有を宣言している。韓国に自信があるなら堂々と裁判で受けるべきだが、負ける公算が高いため受ける事が出来ないのだ。この問題で韓国側の言い分は「国際社会の中では韓国より日本の方が力が強いので公平な裁判が期待出来ない。国際社会では力が全てであり、平等などと言うのは幻想だ」(金慶珠東海大准教授)と言っている。日本は仕方なく単独提訴に切り替えたが、実はこれが一番効果的と言えるのである。何故ならば単独提訴の場合、韓国側は拒否理由を説明する義務がある。その場合、金准教授のように「公平が期待できない」とは言えないし、日本と韓国の間に領土問題があり、それで争っている事が国際社会に公になるので「領土問題はない」とも言えなくなる。そして何よりも重要な事は韓国の竹島の実効支配(不法占拠)の法的中断が行われるという事である。


 現在の日本の現実を見れば、実力で竹島を奪取する事は不可能に近く、実効支配の時効を中断させるのが唯一可能な手段であるからに他ならない。
 韓国は領土問題としての竹島と「慰安婦」問題を常に絡めて攻撃をかけてくる。日本が本当の意味で戦後処理をしてこなかった「政治」の不備をついているのである。ここでどうしても、河野談話、村山談話を見直し、前向きな新時代を築いていかなくてはならない。

解決可能な北方領土

 実効支配を許してしまっている北方領土は返還可能であろうか。竹島と同様、北方領土は終戦直後の9月3日、ソ連軍により不法占拠されて67年が経過した。スターリンによる領地拡張方針、赤色帝国主義の本質を露わにした占領であった。しかし共産主義国ソ連からロシアに変わり、会話の通じる国家になり返還の可能性が生まれてきた。日本青年社は行き詰った返還交渉の突破口を開くべく、訪ロ団を結成し、政府要人と胸襟をひらいて会談し、問題の解決を確認した。平成21年3月の事である。以後、紆余曲折はあったが今年12月には首脳会話を持つところまで進んできた。これは日本とロシアの間には領土問題以外には何の問題も存在しない事と領土問題の解決により両国の国益が一挙に拡大する事が明白だからである。67年の実効支配をひっくり返す今回の機会を逸するならば、北方領土は永遠にロシア領として固定化し、もはや戦争以外の手段を日本は失うことになるであろう。

 現在わが国に突きつけられた領土問題は、憲法前文と九条に拘束された戦後体制、親中派と恐中派の外務省と贖罪主義の政治の行き詰まりを日本国民に明らかにした。問題の先送りは益々事態を深刻化する事も明らかになった。戦後体制を根底から見直し、国民と領土の安全を守り抜く国家を作り上げなくてはならない。