米国は京都議定書に復帰せよ!
平成17年6月18日
渉外局長 大井 明
連休も開けた五月十六日の読売新聞夕刊一面トップに、次のような記事が掲載されてきた。以下に全文を引用しよう。
ワシントン発、中国の工業地帯などで発生する「すす」の量が急増し、北半球の大気汚染が悪化させていることが米航空宇宙局NASAゴダード宇宙研究所の分析で明らかになった。
早急に排出量の低減を図らない限り、世界全体の気候温暖化に悪影響を及ぼす恐れがあるという。すすは、工場や火力発電所のばい煙などに含まれる。同研究所は、衛星観測のデータやコンピュータを使った計算で、地球表面に広がるすすの排出量を調べた。その結果、世界全体のすすの三分の二は工業活動が原因で、その半分が中国を中心とする東アジア地域で発生していることを突き止めた。
最もすすの影響を受けやすい北極地域を例にとると、一九八〇年代初め、すすの排出源として大きかったのはロシアと欧州だったが、その排出量はこの二〇年で四分の一程度に減った。現在の最大供給源は中国地域で、排出量は七〇年代の約二倍に増えたという。北極に飛来するすすは、海氷や氷河の減少、地表温度の上昇、海流の異変など地球規模の気候変動を引き起こす可能性がある。
欧米や日本などの先進国がすすの排出量を減らしたのは、工場のばい煙対策などを進めた結果、国内の大気汚染に悩む中国でも、集塵機や脱硫装置の設置などが奨励されているが、導入した工場は一部にとどまり、すすの排出量は増え続けている。中国のすすは日本にも深刻な影響を与えている。同研究所の計算によると、西日本上空のすす濃度は、1立法メートルあたり500〜1000ナノ・グラム(ナノは10億分の1)で、北米や欧州の最大汚染地域の二倍以上になってしまうという。
これは米政府の見解ではないが、政府機関の一つであるNASAが発表したということは、政府の意向を受けたものであることは明らかである。確かに、中国の大気汚染の実態や環境破壊が著しく進行しているのは間違いないことであるが、それを米国が指摘するというのは、いささか筋違いだと言わざるを得ない。何と言っても二酸化炭素の米国の排出量に「ほおかむり」で、こんな発表をするのは「政治的意図」を感ずる他ない。というのは、一九九九年に発効した京都議定書に米国は調印していないからである。これの調印に強力に反対したのは、他ならぬブッシュである。経済発展の阻害要因になるというのが、その理由であるが、図らずも石油資本をバックに大統領になったブッシュの本音を露呈している。
中国における大気汚染は、わたしたちにとっては重大な事柄であり、従って、汚染を抑える技術においては世界でもトップクラスにある我が日本が、排出権取引をうまく活用しながら、その技術を中国に輸出することこそが東アジア共同体建設の礎になろうというものであるが、それはわたしたちの任務であって、米国の言うべき事柄ではない。むしろ米国に対しては、わたしたちは「米国よ、京都議定書に復帰しなさい」ということであり、それがわたしたちの立場であることを明言しておきたい。また中国に対しては、京都議定書の精神を尊重し、議定書に沿った環境対策を早急に講じることを進言したい。