「9・26三民族連帯行動」デモ
中国少数民族問題とわれわれの立場
政治学者
殿 岡 昭 郎
一、中国の少数民族問題とは何か
去る10月1日、中国(中華人民共和国)は建国60周年を祝った。北京の天安門広場では大軍事パレードが行なわれ、全国が祝賀ムードに包まれた。その一方では、分離独立運動を懸念されるチベット自治区や新疆ウイグル自治区をはじめ、各地で厳戒態勢が布かれたとも伝えられた。
中国の反体制派の一つは、1989年の天安門事件で挫折した民主化運動で、その継承と推進を主張している。中国の経済ばかりに注目すれば、日本や欧米と違いはないかのようだが、政治体制は依然として共産党の一党独裁体制で、国民の社会的・政治的自由は厳しく制限されている。政党は一つ、選挙への立候補には厳しい審査があり、議会での討論や議決も自由ではない。最近は変わってきたとはいえ、共産党員であることが、社会的職業的昇進の条件にもなっている。
もう一つの、より急進的な反体制派は、少数民族による、自治あるいは独立を求める運動である。中国のいわゆる少数民族、中でも過去に独立の歴史と独自文化を有するモンゴル族、チベット族、ウイグル族の動向には、中央政府も警戒を怠ることはない。一昨年はチベット自治区で、今年7月5日には新疆ウイグル自治区で騒乱がおき、多数の死傷者が出た。
中国で民族問題が起るのは当然のことである。なぜなら、いわゆる少数民族は広大な固有領土を漢民族の移住者に占拠され、自らは固有言語と信仰を否定され、漢民族への同化を強要され、今や貧困のうちに民族として絶滅の危地に追い込まれているからである。 たとえば早くから漢民族の移住が進んだ内モンゴル自治区では、漢民族の人口はすでに85%に達し、名前は「内モンゴル自治区」でありながら、モンゴル族は人口の一五%にすぎない域内少数民族に転落させられ、さらにモンゴル語の使用、民族経済である遊牧の制限も受け、民族としての独自性を守ることはきわめて困難な情勢になっている。
チベット自治区での漢民族は人口の20%程度であるが、チベット人の故地であるチベット高原全体では60%を越え、新疆ウイグル自治区でも半数を越えているといわれる。さらに中央政府は漢民族の移住優遇策をとりつづけ、他方で現地人の生活と文化を圧迫する政策をとっているから、やがてウイグル人も、チベット人もモンゴル人同様に域内少数派に転落し、さらに民族としてのアイデンティティーを失うことにおいては、1000万人の人口を要しながら、独自言語と独自の生活風習を失った満州族のような存在になることが懸念されている。
二、われわれの立場
中国の少数民族に対し、われわれは二つのことを考えなくてはならない。
第一は人道上の正義である。異民族ではあるが、中国の少数民族はいわれなく漢民族により、現在の生活を脅かされているだけでなく、民族としての将来を閉ざされ、絶滅の危機に立たされている。信仰を制約され否定され、民族文化の根幹である民族語を教育現場から排除され、生活のため就職のため中国語を強制され、少数民族は過去の独自文化を奪われようとしている。またこうした中央政府の政策に反対の声を挙げる勇気ある人々は“テロリスト”として社会的に排除され、逮捕、拷問、長期の懲役刑による弾圧策がとられている。われわれは不正な強者から義しい弱者を保護するという観点から中国の少数民族を支援すべきでる。
第二は、国益増進の観点である。現在の日本は、国内の親中派、媚中派の増殖もあって、中国の強い圧力に対抗し兼ねるところがある。地図上でモンゴル族、チベット族、ウイグル族の居住地を眺めると、ちょうど日本からは中国の後背地に位置していて、彼らの活動の活発化は中国政府の関心を後ろ向きに牽制する効果があり、もしこれら三民族が結束して活動するに異たるときは、中国共産政府にとり、一大脅威になる可能性がある。また最近は中国の外洋への進出が著しいが、これを牽制し、中国の視点を内陸に釘付けにする効果があるかもしれない。
私は中国の少数民族問題に関し、(3プラス1)ということを言っている。まず三民族が結束すること、その上で中国の民主化と諸民族の独立を実現するため、もう一つ大きな勢力との結合が必要で、それが漢民族の民主派なのか、中国共産党の分裂した一部となるのか、それとも独立を掲げる台湾であるのか、考えをめぐらせている。いずれにせよ、共産中国の抱える矛盾の大きさと深刻さからして、このままでは中国の繁栄継続は困難と考える。自由・民主主義の下、経済的繁栄をとげる東アジア、日本の将来を実現するため、積極的に関わるべき課題である。
中国(中華人民共和国)の面積は960万平方キロメートルで、日本の約26倍である。しかしこのうちの3分の2は、漢民族が少数民族の居住地を奪って併合したもので、漢民族の伝統的居住地は全体の3分の1に過ぎない。
例えば、チベット自治区(120万平方キロ)はチベット族の、内モンゴル自治区(118平方キロ)はモンゴル族の、新疆ウイグル自治区(116万平方キロ)はウイグル族の、それぞれ固有の居住地であった。しかし満州族の「清」王朝が征服・植民地化し、毛沢東の中国共産党政権がこれらを国民政府経由で継承したものである。
さらに満州族の居住地であった満州(78万平方キロ)を加えると、少数民族の居住地の総計は432四万平方キロ(45%)となるが、青海省(72万平方キロ)はもともと漢民族の居住地ではなかったし、ダライ・ラマ法王のチベット亡命政府が、チベット民族居住地は、甘粛、四川、雲南三省に併合された部分を含めて、250万平方キロに及んでいたとの主張を考慮すると、漢民族固有の領土は320万平方キロ、3分の1程度ということになる。
土地面積に較べて人口過多の漢民族は、人口の少ない少数民族居住地への移住をつづけ、現代中国は、少数民族居住地を植民地化し、漢民族化を強要する、世界唯一の帝国主義国になっている。
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